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2007-10-09T17:22:44+09:00
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Excite Blog
きらりきらり 1
http://bookholic.exblog.jp/7369252/
2007-08-30T06:05:00+09:00
2007-08-30T06:03:14+09:00
2007-08-30T06:03:04+09:00
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きらりきらり
携帯の番号も交換済み。疑わずに待っていた。
暑さのせいだろう、私のイライラから近くのネットカフェに駆け込み抗議のメール。
悪戯ではなく、誠実に彼からレスが来る。
「査定されたか・・・」そう感じて、煙草臭い昼のそこを後にした。
振り返れば、今年の猛暑でヒートした私に感謝である。
そこから、幾日かして彼に会う事が出来たからである。
想像と違う人物との遭遇も久しぶりだった。
もう少し野暮ったく、むさ苦しい青年をイメージしていた私は、彼の風貌に自分の勘も半人前と認めるほどに、今時の爽やかなそして人受けの良さそうな見た目に驚き、胸が弾んでしまう。
それほど、作り上げられた彼だったのだ。
この状況だと、思うところ彼女と別れ、むしゃくしゃした・・と、こんな所だろう。
勝手に推測しつつ、お決まりの他人行儀な世間話をしながら歩く。
その最中でさえ、私の彼への妄想が一人歩きなのだ。さて、どうしたものか?
顔は笑顔で、暑さ等も感じないけれど瞳は冷たく、笑ってはいない。
何かある。そう感じ取るのにそう時間は要らなかった。
それを感じ取った私は、長い付き合いになるとも知らずに。
そうそうに、約束通りに彼と体を絡めあった。薄暗いとは言いがたいほど暗くした部屋で、無心に言葉少なくただ優しく労わるように肌と肌を触れ合わせる。けれど、自分を追い込む彼の肌は冷たく感じられる。
私は、初めて会うこの青年とキスをした。驚くほどに自然に。
何年ぶりなのだろう。頑なに今まで拒み続けていたのに彼には許してしまった。心に何かが入ってくる気がした。重く心に唇の感触が染み渡っていった。
何だか調子が狂い始めた私は、言葉少ない彼の重い口から自分事や彼女の事や会社の事を言葉にしていく彼の話を聴いていた。優秀な大学を出て、良い会社にはいり、独立して彼女もいておまけに、両親も申し分なく文句のつけ様の無い話は出来過ぎのようにも感じ彼は一時の迷いで気晴らしに私と寝たのだとも思える。完璧な人生を歩んでいる。はたからはそう思える話だったからだ。
到底、本心を話す事など無く大抵人は外では自分を服で包むように言葉で防御し着飾る物だから。全てを信じる事は無かった。ただ、彼の瞳は冷たく淋しく恐怖さえかんじる程に暗かった。トンネルを覗くとオレンジの誘導灯がずっと続き、長い道を想像させるくらいの深さを持っていた。底なしの沼にも似た深い深いものだった。
私は彼を知りたくなった。心が騒ぎはじめる。キスをしたからではない、と言い聞かせながらもこの好青年の闇を覗き込みたい衝動に駆られていた。最初の主旨と違う行動に出た私の気持ちは自分の人生さえも変えてしまう事など思いもせずに、彼へと突き進んでしまうのである。また次に合う約束をした。
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きらりきらり 2
http://bookholic.exblog.jp/7376895/
2007-08-29T22:01:00+09:00
2007-08-31T22:02:22+09:00
2007-08-31T22:02:22+09:00
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きらりきらり
しかし、事実は違って、彼女は違う男性に感染ルートを持っていた。当時では感染率のもっとも高いナイジェリア出身の彼からの感染だった。その彼女を後に受け入れたのが彼だった。誤解しないで欲しいのは、彼はキャリアではないという事だ。純粋に、プラトニックに彼女を愛したという事実。
この告白の最中は、彼の目が少し開放されていたように思う。今もその子が彼の中に満ちている、そう思えた。一つ屋根の上で生活をし、息を引き取るまで見届けた彼の話は想像以上に壮絶に思えてならず、人生の生き抜く労力をその時間に費やしたのだと判った。
彼女とは大学時代に知り合った。友人の「HIVの子が居るんだけど、会ってみない?」その一言が彼と彼女を引き合わせる事になった。運命とは悪戯だ。彼女も到底彼が自分の最後を見届ける人になるであろうとは思いも寄らなかったはずだ。この出会いが、運命ならばどの位の確立なのだろう。私と彼が出会う確立よりも遥かに高い事は確かである。
この運命の出会いから間もなく、彼女の大学も病院も近い事から彼は彼女と一つ屋根の下で生活を始めた。彼女の愛犬も一緒に。
彼女との生活始めたきっかけを彼はあまり話したがらずに居る。だから、定かではないがお互いが強烈に惹きつけ合ったとしか言う事が出来ない。愛とか恋とかそんな小さな事ではなくて、死を確定された彼女の生き様が彼を飲み込んだのかもしれない。そう思えてならない。
二人の別れが確約されたスタートだ。悶々と生活をしている私たちとは違う。ゴールがある毎日が始まる。今日か明日か・・まだ若い二人には時間が早く感じられた事だろう。
彼は、彼女に大量の薬を飲ませなければならなくなった。命の薬。彼女の主治医とも密にコンタクトを取りながらわずかな時間をも延ばす努力を惜しまなかった。自分の事は二の次で居たのは彼の話す顔を見ればすぐに察知がついた。
彼女は、動けなくなるギリギリまで大学に通い普通の女子大生をしていた。普通だから楽しく、コンパに行ったり羽目を外したり副作用で弱った体には辛かろう事を普通に行っていた。彼女が薬を忘れるとそこまで届け、飲まない彼女に頬を叩いてでも薬を飲ませた彼。
時には、レポートを書いたり同化した共同体のように彼女の世話を焼いた。
何一つ、周囲の友達と変わる事無く生活が出来たのだろう。幸せだったに違いない事は確かだ。彼女の写真を大切そうに見せてくれたことがある。その写真の中の彼女は本当に幸せで楽しくて仕方の無い屈託の無い笑顔でほほ笑んでいた。二人が幸せだったあの時間の写真。胸が痛くなった。
自分を病魔に冒したナイジェリアの彼からの手紙が途絶えたある日、彼女はナイジェリアの彼に会いに行きたいと、彼に懇願した。会って生きていると信じたかったのだろう。自分はまだ大丈夫、その目で確かめたかったに違いない。ボロボロの体で彼女と彼は本当にナイジェリアまで彼に会いに行った。日本とは反対の国に。
強制送還によって本国に帰された彼は、彼女だけに置き土産をしていった訳ではないであろう。他にももしかしたら居るかもしれない。そんなナイジェリアの彼に彼女が会いに行くのに彼は付き合った。複雑を通りこし、急がなきゃいけない状況に冷静に判断できなかったのかもしれない。これも彼なりの彼女に対する治療だと納得する他無い行動である。
現実はやはり残酷で、二人の目には葬られた彼の墓しか映すことが出来なかったのだ。立ちすくむ二人の姿が目に浮かんでくる。おそらく、赤茶けた砂埃の舞うその異国の地でこれから起こり来る現実を目の当たりにしたのだろう。乾いた空気もそれに見合う空気であろう。その晩、二人は何を話したのか?もしかしたら、言葉が無かったのかもしれないし会話も出来ないくらい憔悴しきった彼女の側に寄り添う事しか出来ない彼が居たかもしれない。
ナイジェリアの彼の死は、彼女を弱らせるスピードに加速したかもしれない。充分に認識していてもやはり怖いはずだ。素敵な思い出だけを思い出している彼女の書いた文章が残っている。ナイジェリアのその彼との事だ。日本人にはない優しさが彼女を夢中にさせた事は言うまでもなく、文面には彼の優しさが溢れている。気丈な彼女には心地よかったのだろと思う。しかし代償は大きすぎた。
それを見つめる彼の目が淋しそうにしているのが私には見当がつく。実際に向き合いながら生活を続けた彼の気丈な心も同じく弱っていったのかもしれない。
彼女は静かに息を引き取っていた。彼と愛犬との一つ屋根の下で。朝。一日の始まりに彼女は彼にお別れをした自分の抜け殻を見つけさせた。精魂果てた彼には涙は必要なかった。
ただ、ぬくもりのない彼女を見つめ自分にこの生活の終わりを告げた。
おそらく、あっけなく幕引きの日が来たのではないか。必死に彼女を看ていた彼は初めてのことで、悪化する彼女の病状に気が付く事が出来なかったかなかったはず。
入院を拒み、部屋に閉じこもっていたようにも取れる。その瞬間を逃すまいと。彼女は彼との一つ屋根の下を自分の人生の終わりを迎えるふさわしい場所に選んだのだ。
果たして、彼には何が残されたのか。精魂果てた心と肉体。最後まで必死になった時間を
ただ後悔する無常の時間。
この世から消えた彼女は、彼から何を奪い取っていったのか。愛する事もせず、ただ恩恵を受けて逝った彼女。彼の蓄積された疲労ですら、あの世には持っては逝かずに置いていった。
その瞬間、彼の自責の念との葛藤が始まり、愛する事をそして信じる事を拒み始める再スタートになってしまったのだろう。あの瞳の深さはこれが原因だと私は確信せざる得ない状況に追い込まれる事になった。]]>
きらりきらり 3
http://bookholic.exblog.jp/7401378/
2007-08-28T22:40:00+09:00
2007-09-05T22:40:40+09:00
2007-09-05T22:40:40+09:00
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きらりきらり
平然を装いつつ、手早く夕食を作る、それを夫は野球中継に目を向けながら何も言わずに平らげる。それから夫はシャワーを浴びようと、浴室に向かった。サインだ。私は迷った。夫と寝るべきなのか、どうすべきか。セックスの時は夫が赤ん坊に豹変してしまい、その性癖に今までは耐えてきた。
破壊的に解釈されるかもしれないけど、私はこの状況を自己犠牲と感じている。ギクシャクした空気の中で、話す事も間々ならない日常を過ごし。感情を開放できず、ましてや気の休まる場所ではないこの家にとどまらないといけない言う事の現実。肉体的なことならば、疲労感や目に見える傷や視覚として捉えられるけれども、心が開放されない事こそ、自己の心や感情を犠牲にしていると言う意味での自己犠牲。
もともと、自分の力で全てをこなして来たのでこの様な状況には慣れている。私が彼と会う約束をした最初の主旨はお金が必要だったからだ。彼にめぐり合う前から、何人もの男と約束をし、自分の肉体を代償にして、その対価を得てきた。けれども、その中で自分の心の最後の壁となっていたのは、私の唇だ。
私の唇。それは最愛の娘の為に取っておきたかった。側にいて上げられる時間は少ない。けれど引け目は感じない。私には、親としての責任がある。何があっても、仮にどんな事をしても彼女を養う為に生きてきた。たとえ他人がどんなに優しい言葉をかけてくれたとしても、結局は誰も助けてはくれない事も、骨身にしみて知っている。生きていくって体力もいるし、強く信念を持って行かなくてはいけないと自分に言い聞かせてきた。とにかく生活をしていかなければならなかった。娘を実家に預け、ひたすら働いて、勉強してへとへとになる毎日を送り続け、資格を得て、皮肉にもカウンセラーとして、自分の心は癒せぬまま、他人の心を癒し続けた。
他人を愛する事をしないようにしてきた。異性を愛する事は、体力的にも精神的にも苦痛の何者でもないと感じていたから。それまでに付き合った男たちには、甘える事を知らない女だと言われ続けてられたとしても。夫との結婚も周囲や家族の私の憔悴しきった姿を胸を痛くした結果。傍から見れば、私のしていた生活は見るに耐えかねたのかもしれない。絶対に弱音は人の前で吐くことなく、自分自身の事より家族の事の幸せばかり考えながら、とことん、突っ走って生きてきた。
そんな私でも構わないと結婚を受け入れてくれた夫。ある事件をきっかけに憔悴しきった私と、結婚を勧める両親の笑顔。娘もすでに小学生の半ばに差し掛かり、父親不在いう状態は避けたい、何より私が娘と一緒に暮らしたいと強く願っていた。自分の感情を殺し、結婚を受け入れるしかなかった。
これまでの私の人生に比べると急ブレーキをかけたかのような、一日の進み方。式までの間、私はイライラし、何度も結婚を取りやめようと思った。
でも結局、何も出来ない自分も居たわけで上手くいかず、そんな私を見かねた母は、娘の為だと何度も言い、私もその理由で納得したが、母は私のパスポートをどこかへ隠し、私の友人達に私をかくまわないように言い聞かせ、結局、自分でウエディングドレスを選ぶこともなく、式の日を迎えた。
夫はお金持ちだ。いやお金持ちだったというべきかもしれない。不自由なく育ち、親の事業を何ら疑うこと無く継ぐ事ができた。でも夫が毎日する事といえば、仕事中すぐにどこかに消えて、家に帰りついた時には正体が不明になるまでお酒を飲み、ネオンの匂いをさせながら、私に甘えるようなセックスを強要する。夫の仕事への情熱は無く、夫の税理士が私の所へ相談に来るぐらいだ。
結婚して三ヶ月が経とうとする頃、娘はそんな私の心を見透かすような言葉を私に打ち明けてきた。
「あの人はパパじゃない。あたしはおばあちゃんの家に帰りたい」
その言葉に私はただうなずき、夫と夫の両親を説得させ、娘を送り出す事しかできなかった。最初はきちんとしていた娘への生活費も、だんだんと遅れるようになり、私があると思っていた、定期貯金もなし崩し的に解約されていて、援助を求めた夫の両親との間もだんだんと疎遠になっていく、しかし私は両親が苦労して結婚相手を見つけてきた時の笑顔を思い出す度に離婚を切り出す勇気はなく、ただお金だけが必要だった。
彼とも一線を引かなくてはと自分に言い聞かせながら、私もシャワーを浴びた。でも、夫の酒気を帯びた目を見た時、私は彼のたまに見せる真っ直ぐな目を思い出し、結局、夫とは二度と寝る事は無かった。]]>
きらりきらり 4
http://bookholic.exblog.jp/7553333/
2007-08-27T17:22:00+09:00
2007-10-09T17:22:44+09:00
2007-10-09T17:22:44+09:00
bookholic
きらりきらり
彼はよく、私を食事に誘ってくれた。その中でとても印象に残っているお店がある。それは湖の近くにあるレストランだ。とてもレストランがあるとは思えない小路を通り抜け、私の気持ちはまるで子供が遠足に行く前日のようにぐにゅぐにゅと高まっていった。小路を通り抜けた先に見落としそうなぐらいにひっそりとたたずむ看板があった。その看板にはここの主のイニシャルらしき「R」の文字に葉が生い茂っていて、主張こそしないが、流される事はないといった感じの緑色が使われていた。看板から視線を外し、上を見上げると、そこは古い民家を組み合わせて和洋折衷に仕立てられた家で、とてもシックな外観だ。いつか私が住んでみたいと思っていた家がそこにはあった。私たちを案内をするレストランの主はその重厚な家の造りからは想像もつかないほど、若く美しい、一言二言の会話の中にも聡明でありながらも謙虚な印象を感じさせる。
出てきた料理も主に似ていて、シンプルな組み合わせだけれども、とても味の純度が高い料理で、私の言葉では表現できない美味しさだ。今までに、色々なお店を巡り、様々な料理を味わってきたと思っていたが、このレストランに匹敵するものはない。心惹かれる人との食事である事がその味わいに深さと喜びを加えていた。
素晴らしいレストランでの食事を終え、私たちは、湖の周りを散策し、ホテルが経営している喫茶店で一休みをした。
たぶん、この時だろう、私の心は完全に彼に奪われたと実感したのは。
彼は喫茶店に入ると少し、そわそわして、視線が泳いでいた。ホテルのボーイが案内した席を見るなり、席を変えてもらえないかと言った。その言葉の端はしに少し、怯えと闇が感じ取れた。明らかに最初に案内された席よりも、明らかに位置が悪い席に案内されると、彼の目は少し落ち着きを取り戻していた。私はどうしてもその事が気になった。私は彼に尋ねた。彼は水を飲んでから、私の目を見据えた。
さっきの席は彼女が亡くなった後に、彼と友人が来た際に座った席だと。もし座っていたら、また思い出してしまうかもしれないと。私は彼の心をのぞいていたはずなのに、いつの間にか自分の心をのぞかれている気分になった。まだ、彼の中には彼女が生きていると感じた。彼の心の曇りはまだ晴れていない。私は彼の話を聞きながら、亡くなった彼女と、この場所へ来た友人に嫉妬した。嫉妬してしまうほど、彼の事を考えていた。今までに誰かに嫉妬する事などなかった。嫉妬するほど他人に依存する事自体が考えられなかった。でも不思議と心は安らいでいた。成るようにしか成らない・・・そう思った時、私は決心した。
これまで、彼と逢瀬を重ねてきたが、朝まで一緒にいる事はなかった。それは私が自らに課した一線。本当は、時間の許す限り近くにいたい。私は彼に言った。
今度、娘の用事があって実家に帰らなければいけない、その時に、一緒に来てくれないかと。]]>
SevenTeen
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2007-08-14T01:03:00+09:00
2007-08-14T01:04:24+09:00
2007-08-14T01:03:10+09:00
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未分類
カーリンが、カナダ語訛りの大げさなアクセントで主張するものだから、それはスゴいんだろうと思って泣けなしのおこづかいをはたいて、買ったCDが「LEGEND」。
Bob Marley and theWAILERSのベスト盤である。
そのとき、カーリンとぼくは17歳で、アメリカ合衆国はニューヨーク州のWoodstockという町にいた。ニューヨークという冠はついているが、マンハッタンからは車で飛ばしてもハドソン川沿いにさかのぼって2時間半はかかるCatskill Mountainの中にある小さな町だ。
横浜のみなとみらいをマンハッタンにたとえるならば、Woodstockは、さながら箱根町といったところ。
ぼくとカーリン(カナダ人)は、ロスに留学中で留学機関の斡旋する宿舎で隣の部屋どうしだった。
夏休みになって、私が当時、Woodstockに住んでいた叔父の家に行くって話をしたら、彼女は目を輝かせながらこう言った「一緒に行ってもいい?」
ところで、箱根にその昔、関所があったという史実があるように、Woodstockには1969年に巨大な屋外ロックフェスティバル(Woodstock Festival)が開かれたという伝説が残っている。
アメリカ中のヒッピーが集結し、肩寄せ合いながら「ザ・フーやスライやデッドが演奏し、ジャニスが裸足で歌い、ジミヘンがアメリカ国歌を爆奏する」のを眺めたという、あの伝説のロックフェスティバルである。
ぼくがそこでお世話になった家は、その昔ボブ・ディランの住まいだった屋敷の近く、シカやスカンクやリスが行き交う林を挟んだ敷地にあった。
「あの家にボブ・ディランが住んでいたんだよ」と某社で人工衛星関係の仕事をしていた叔父。
でも叔父の家には叔父した住んでいなかった。
息子達がお受験だったので、家族は日本に住んでいた。
たぶん、寂しかったんだと思う。親戚中から白い目で見られていたぼくを特に気にする事無く、招待したのだから。
そして、留学生同志のカーリンとぼくは、LEGENDに収録されているお気に入りの歌「No Woman No Cry」を大音響で流しつつ、Woodstockの空の下、プールサイドで寝転んでいたりしたものだ。
カーリンは、太陽の光を浴びると金色に輝くきれいな栗色の髪をドレッドにすべく懸命に努力していた。
Woodstockという空間で、ラスタファリアンにお熱のカナダ人と、プールサイドに寝転んでレゲエを聴く。ひとしきり泳いで家に入ると、リビングには何故かジャニスの写真が飾ってあり、「ボブディランやジャニスもいいぞ、ジミヘンはどうだ?ザ・バンドやグレイトフルデッドは知ってるかい?」と叔父が主張する。
こんな風にして、ぼくの17歳の夏は過ぎていったのだ。
だって、そこはWoodstockだったから。
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『フロントガラス』 1
http://bookholic.exblog.jp/7213310/
2007-07-30T15:05:00+09:00
2007-07-30T15:06:00+09:00
2007-07-30T15:05:06+09:00
bookholic
フロントガラス
10月の冷たい雨だった。
僕は友人とドライブに出かけた。
友人のご自慢の車で、昼も2時をまわったころから箱根に向かって車を飛ばした。
どこまで走っても雨は降っていた。山に近づくほど余計寒く降っている。友人の車のフロントガラスは寒さで曇った。友人は風をあてて曇りを取ろうとした。ガラスから曇りが消えてく瞬間、雑に拭いたのであろう跡が窓に浮かび上がって消えた。気づけば寒さによる曇りではない澱みにも似た跡が僕たちの目の前をさえぎっていた。
友人は整理整頓が上手かった。気になると考えをはさむ間もなくてきぱきと片付け、後にはさっぱりと何もない空間ができあがるのだ。友人は嘲笑った。片付けが下手な恋人と、ゴミの中に住んでいる女友達を。友人はいつも片付けが上手かった。今回を除いては。
友人の恋人はHIVだった。前の彼氏がキャリアだったのだ。彼はナイジェリア人で、不法滞在しているところをつかまり本国へ強制送還された。強制送還される前に彼は彼女にこう手紙で書き残した。
「今は神様が自分たちを引き離してるけど、ちゃんとまた元に戻してくれる。kamisamaosinnjiteru」と。
きっと誰かに聞いたのであろう、日本語で手紙の最後を締めくくっていた手紙。]]>
『フロントガラス』 2
http://bookholic.exblog.jp/7225474/
2007-07-28T17:07:00+09:00
2007-08-01T17:06:04+09:00
2007-08-01T17:05:43+09:00
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フロントガラス
現実を彼女は信じる事はなかった。
彼女は眠り女になり、夢の国で生きつづけた。そんな彼女を友人と彼女のトモダチ達は支え、励まし続けた。
友人と彼女は毎晩、チャットで会話した。早朝の新聞配達のバイクの音が聞こえるまで会話した。
好きな作家の話に始まり、お互い生まれて初めての記憶から、自分たちの年代記を読み上げていった。
それでも彼女は彼の大きな手を忘れることはなかった。それでも友人はそれを承知で付き合い。そして、思い出の中で息する彼女と彼女の犬と一緒に住み始めた。
だが、今住む世界が現実の中にある夢の国であったとしても、彼女はナイジェリアへ行き彼の消息を確かめたかったのだ。
真実が現実を超えた、本当の夢の国への鍵であるにも関わらず、彼女は外の世界へ出るのを切望した。
そんな彼女を見た彼は何も言わず、眠らずに働き、そして、彼女が飲む薬が溶けないようにクーラーボックスを抱えて彼女の夢を叶える為にナイジェリアへ飛び立った。
僕が飛び立つ前に、眠らずに働く友人と会った時、友人の瞳もまた、夢の中の住人の瞳だった。
ある日、彼女は眠っていた、いつものように横になって。いつもと違うのは、冷え切った体とそこに浮かぶ斑点ともう開くことのない目だった。友人の膝の上で彼女はそのまま眠っていた。
友人は泣かなかった。泣けなかったと、そう僕に言った。現実感がないと言った。
彼女が運び出された時、友人の肢は真紫色だった。それだけが現実。
彼女は多分、もともと夢の中のひとだったのだ。それでも、友人はその夢からなかなか目覚めることが出来ないでいた。]]>
『フロントガラス』 3
http://bookholic.exblog.jp/7225476/
2007-07-27T17:08:00+09:00
2007-08-01T17:06:48+09:00
2007-08-01T17:06:48+09:00
bookholic
フロントガラス
ここと、そことは違っていた。そして僕と友人も。
キャラメルマキアートと一緒に注文したケーキは安かったが、キャラメルマキアートはケーキの3.5倍の値段がした。
多く青を含んだねずみ色に箱根が包まれるころ、帰途についた。
山道はすっかり暗く、冷たい雨のせいで曇ったフロントガラスに何度も僕らはひやひやした。風をあてても、ガラスは晴れなかった。なのに、友人はスピードを上げ飛ばした。整理しきれない恋人の断片を振り切るように。大きな雨粒がフロントガラスにあたる度に、恋人の小さな透明の体が鈍い音をたてて弾けていくようだった。僕は曇って消えないガラスの跡を眺めながら、思った。
問題なのは、雨や寒さや片付けの上手下手ではない。この磨ききれていないフロントガラスなのだ、と。]]>
涼しい魚 1
http://bookholic.exblog.jp/7112467/
2007-07-14T20:03:00+09:00
2007-07-14T20:03:59+09:00
2007-07-14T20:03:47+09:00
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涼しい魚
私が一緒にいる男の人はなんでもないかのように自分の感情を言葉に表して、それを私にも求めるけれども、私はいつも失敗する。そんなとき彼は少しさみしい犬の目をするから、私は全身全霊をかけて言葉を捜すけれども成功したことがない。私が失敗して困惑するたびに彼は私を両腕でつぶそうとする。それはとても苦しくて息が詰まりそうになるけれども、安心する。そして息と一緒に言葉も詰まっているのを感じる。そんなとき私はただただばかみたいに彼のことをじいっと見てしまう。彼が腕の力をゆるめて息がふうとでるときに言葉も一緒に出てくればいいのに、と思う。
彼は私が母語でない言葉を使って会話をしているから何かを言おうとするたびに押し黙るのだと思っている。私もそうなのかもしれないと思って日本語の頭で考えてみたりするけれども、ますます言葉は見つからない。
彼が言葉を次々と発し、私はそれを聞き、安心して、口をつぐむ。そして彼が私をつぶす。私たちはその繰り返しをすることでお互いの存在を確認しあう。
私たちはよく彼の部屋にいた。ただ二人でテレビを見て、昼寝をしてご飯を食べてセックスをする。私たちはどこへいくでもなく、なにをするでもなく、ただそうやってだらだらと過ごし、そのことに満足していた。]]>
涼しい魚 2
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2007-07-13T05:48:00+09:00
2007-07-16T05:49:27+09:00
2007-07-16T05:49:27+09:00
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涼しい魚
時折、ずいぶんと長くドアが開かないことがある。仕方がないので私はドアの外で待つ。そんなときは彼が夜ご飯のための買い物をしているから。私はぼおっと立って、彼の帰りを待つ。その時間は何時間にも感じられて大変なので、私はぼおっとすることに一生懸命になる。遠くのほうからスーパーマーケットの大きな袋を持ってこっちに歩いてくる彼の姿を確認するけれども、私は決っして遠くの彼に手を振って気づかせたりはしない。気づかないふりをする。気づかないふりをしている私に彼はそおっと近づいて、でもビニール袋の音ですぐにわかるはずなのだけども、私は気づかないふりを続けて彼が後ろから腕をまわしてくるのをまつ。私はそうされてはじめて気づいたのだというふりをする。]]>
涼しい魚 3
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2007-07-12T19:27:00+09:00
2007-07-17T19:28:08+09:00
2007-07-17T19:28:08+09:00
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涼しい魚
彼と会う時は化粧をしなかったし、洋服も洗いざらしのもうぼろぼろになったジーパンとTシャツといったものだったので、彼は私を貧乏だと思っていた。私たちは「恋人同士」だったのかもしれないけれども、私は「恋をして奇麗になる」とかいうのとは程遠かった。恋。私にはそういう難しいことばのことは考えられなかった。一緒にいたいから一緒にいる、ただそれだけだという感覚。言ってみれば義務感のようなもの。一緒にいなければ、という使命感のようなもの。そのことを彼に話すと、こんなに遅れておいて使命感もなにもないだろう、と余計に機嫌を悪くした。私は自分がどうして時間に遅れてしまうかはわからず、だから解決策も見つからなかった。そういうわけで私は毎回遅刻をした。
彼を待たせた最長記録は5時間で、そのときの彼の怒りようはものすごいものだった。それは私がはじめてみた私に対して人の怒っている様子だった。こんなにあからさまに怒りをぶつけられるのははじめてだった。君のせいで頭ががんがんするよと、頭を抱え込んでいらいらしている彼を見ながら私はどうすることもできずにただそこにいた。頭痛は私のせいではなくて、ほかの原因があるのでは、と思ったけれど言わないでおいた。
待つということがどういうことか、私にはわかっていなかった。]]>
涼しい魚 4
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2007-07-11T19:28:00+09:00
2007-07-17T19:29:00+09:00
2007-07-17T19:29:00+09:00
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涼しい魚
私はその過程をただ見ているだけだった。ベッドの上に寝そべって。ただひたすら。空いたお腹をかかえながら。
そうやって待っているうちに、私はいつもうとうとと眠ってしまう。おいしいにおいを遠くのほうでうすぼんやりと感じながら。出来上った食べ物を持って彼が私の名前を呼ぶ。真っ赤な唐辛子の粉がたっぷりとはいった辛いシチューとフフの夜ご飯。私はねむっていたことに気づく。それからとてもお腹がすいていることにも。それで私はすぐに食べようとするけれども、彼は先に手を洗ってきなさいという。しぶしぶ手を洗ってもどってくると、彼はもうひとりで食べ始めている。そして私にも食べさせる。私が彼の作る料理を食べるのがあまりにもへたくそで遅いから。こんなに熱いものを3本の指でつかまえて食べるなんてどうかしてる、と私は思う。
だけど私は食べさせてもらうのが好きだった。彼の指も一緒に食べられるから。いつも料理をしていたのは彼だった。そして私にもなにか作って欲しいと言ったけれども、私は私の国の料理を彼が好きではないと思い、作るのがこわかった。彼が私の作ったおいしいと思えない料理を食べて、だけどおいしくないという顔ができずに困った顔をするのを見るのはいやだった。そういうわけで私は、いつか作るよといいながら、時が過ぎて結局彼は私の料理を食べることのないままだった。
それはそれはとてもじんわりとあたたかい時間だった。程よくあたたかい。そして、そういうものはすぐに冷めてしまう。]]>
涼しい魚 5
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2007-07-10T05:49:00+09:00
2007-07-19T05:49:25+09:00
2007-07-19T05:49:25+09:00
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涼しい魚
こういうふうにして私たちはなんとなく時間を殺していた。なんら変わったことのない平凡な毎日。]]>
涼しい魚 6
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2007-07-09T05:49:00+09:00
2007-07-19T05:50:09+09:00
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bookholic
涼しい魚
連絡が取れないまま2日が過ぎた。今までに2日も連絡を取らなかったことはなかった。なにかあったのだろうかと不安でどうしようもなかった。3日目の夕方、うつらうつらしていた私は携帯の音にあわてて飛び起きた。どきどきしながら電話に出ると、それは知らない男の人の声で、今度は別の意味でどきどきしながらそのひとの発する言葉たちを聞いた。
彼は不法滞在により入国管理局に収容されている。面会を求めているので身分証明書を持って面会に来てあげて欲しい…
意味が良く分からなかった。入国管理局?不法滞在???
次の日とにかく私は彼に会いに入国管理局へ行った。面会は15分間ガラス越しで見張りつき。なんでこんなことになってしまったのだろうと、いろんな感情が一気に噴き出して来て、彼の前で初めて泣いた。ひさしぶりの大泣きだった。ついこの間まではふたりでだらだらと過ごしていたのに。あのいとしい時間たち。
彼はただ悲しそうに泣くな、と言った。でも私は自分を抑えることができなかった。初めて彼の前で吐露した感情は彼も自分も痛めつけるものでしかなかった。]]>
涼しい魚 7
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2007-07-08T08:39:00+09:00
2007-07-19T08:40:17+09:00
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bookholic
涼しい魚
そしてそう思う自分の中に、彼がここにいる限り、毎日会うことができる、帰したくない、そう思っている自分もいることを私は知っていた。そして私はそういう私を嫌悪した。
面会後、航空券を買うお金を集めるために彼の友人をたずねてまわる。たいしたこともしていないのに、私は疲れ果て、たばこをすって不安な気持ちをごまかした。そういう毎日をを続けて、1ヶ月がたとうとするころにはお金も集まっていた。すべてが終わったような気がした。空っぽが私を襲って来た感じがした。航空券の予約をし、彼にそのことを伝えると、悲しいようなうれしいような顔をした。もう長いこと彼のミッキーマウスの口を見ていないなと、ふと思った。
彼が日本を発つ前日、最後の面会に行った。いつも15分を過ぎても話しを止めない私たちだったけれど、その日は15分という時間を初めて守った。必ず二人でまた一緒にいられるようになる、と彼は言い、私も絶対大丈夫だと言ったけれど、頭の片隅ではぼんやりとそんな日がこないことも分かっていたような気がする。それでも私たちは穏やかだった。二人でこんなにも穏やかな時間を過ごしたのはそのときがはじめてだった。私たちは笑ってまたね、と言い、その時久しぶりに彼のミッキーマウスの口を見た。不思議に静かな空気が流れていた。]]>
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